仁井田本家が無農薬・無化学肥料で育てた自然米で「自然酒」を造り始めたのは1967年。自然食を推奨する団体から自然栽培の米で日本酒を造ってほしいと十七代目のもとに依頼があったのが発端でした。自然米と天然水のみで仕込んだそのお酒は「金寳自然酒(きんぽうしぜんしゅ)」と名付けられ、“無添加の酒”として評判を呼びました。なぜなら、当時の日本酒は醸造用アルコールを加えるのが一般的で、防腐効果があるサリチル酸の使用も認められていたからです。

十八代目が杜氏になってからは、自然酒をより自然の状態に近づけるべく改良を重ねていきました。2013年から醸造用乳酸の使用をやめ、翌年には酒を透明にするおり下げもやめ、さらに2015年からは生酛仕込みに切り替えました。生酛ゆえの酸味は酒の輪郭に締まりを出します。醪造りの行程にもこだわりがあります。通常日本酒は発酵スターターである酛に水と蒸し米と米糀を3回に分けて加えることから三段仕込みと呼ばれていますが、自然酒は蔵に伝わる独自の「汲み出し四段」という製法で仕込まれています。これは一度ほかのタンクに汲み出して4回目を仕込むというもので、複雑で手間がかかる製法ですが、米のうまみと甘さを最大限に引き出すことができます。「酒は百薬の長、身体に良いものでなくてはいけない」という十七代目の思想が息づいた自然酒は、「身体にしみこむような味わい」「飲んでも次の日に残らない」と長年多くの人に親しまれてきた、まさににいだの酒造りの原点なのです。

2017年の50周年を機にその名称を「にいだしぜんしゅ」へと改め、ラベルも刷新しました。仁井田本家のデザインを手がける「Study & Design」の古谷萌さんと何度も話し合った末、ラベルデザインをよりシンプルで自然な印象のものに変更。外装の外箱や包装も取りやめ、環境にも配慮したデザインへと生まれ変わりました。長年飲み継がれてきた「自然酒」が、今度は若い世代の人たちに50年先も飲み継がれる「しぜんしゅ」になってほしい、そんな願いが今のラベルには込められているのです。