数年前から蔵では大規模な改修工事が行われています。ご先祖様が建ててくれた蔵はいくつもの建物が連なってできていますが、長い年月の中で増改築を繰り返した結果、現行の法規に適合していない部分が生じてしまっていました。この先十九代目や二十代目がこの蔵で何か新しいことを始めようとした時に、蔵を一から建て直さなければならなくなることを危惧した蔵元は、自分の代ですべてクリアにして次の世代に酒造りの環境を引き継ぐことが最重要だと考えました。しかし、一度解体して離した場所に建て直すというあまりにも複雑な工程を繰り返すため、誰もが匙を投げていたところを、北海道在住の建築家の宮城島崇人さんが引き受けてくれることに。

神事や祭りと関わりが深い酒蔵において「ハレを前提としたケ」がひとつのデザインテーマに掲げられ、米倉庫の改修から着工が始まりました。できる限り自社山の間伐材を無駄なく使い、外壁は米づくりで得た藁スサ入りの土壁で覆う。そして二重屋根形式による鉄骨の大屋根が、土壁を守りつつ大きな半外部空間を生みだす、そんな蔵のシンボルとなる建物が2022年に完成しました。「仁井田本家が日本酒を造り続けるから、この土地が豊かでいられる」地域からそんなふうに思ってもらえるような蔵へと、年々アップデートしていきます。