「しぜんしゅ」シリーズと並ぶもうひとつの看板ブランドが、代々蔵元に受け継がれてきた名前の1文字「穏」を冠した「穏(おだやか)」です。中硬水の井戸水で仕込むしぜんしゅとは対照的に自社山から湧く軟水で仕込まれ、上品な味のふくらみとキレの良さが特徴のこのお酒の誕生は、今から遡ること30年前。東京農業大学醸造学科を卒業し、修行先から実家に戻ってきた仁井田穏彦は、長く病気を患ってきた先代に代わって弱冠28歳で十八代蔵元となりました。しかし、日本酒の売り上げが右肩下がりの冬の時代……景気の良かった先代の頃と比較されることも多く、蔵元の気苦労は絶えませんでした。そんな状況の中、新たな挑戦として目を向けたのが、福島県産の原料にこだわった酒造りでした。
1994年の発売以降、高齢化の進む契約農家さんたちと共に歩み、2003年からは酒米を買い付けるだけでなく、自分たちがいい手本となれるように自社田での自然栽培を開始しました。自然栽培米は慣行栽培米と比較して、日頃の手間もかかるうえに同じ面積の田んぼで約半分の量しか収穫できません。ですが、見方を変えれば、農薬や化学肥料代といったコストはかからないので利益自体に大きな開きはなく、収穫量さえ上げていければ“自然派”という付加価値も生み出せ、さらには地域の自然環境を守ることにもつながります。
2011年の震災以降は、風評被害に苦しむ県内の有機農家さんの少しでも力になれればという思いから契約農家さんを増やし、「おだやか」ブランドには積極的に有機栽培米を使用しています。「日々穏やかでありますように」という願いが込められたこの「おだやか」は、福島の農家への思いが詰まったブランドなのです。