かつて日本人は地域の環境と共に自給自足してきました。山の木から道具を作り、火をおこし、山菜やキノコを摘んで、豊かな水で野菜や米を育てる。そして森を手入れし、次の世代のために木を植えてきました。そう考えると、現代人の生活は地域外に依存しすぎているのかもしれません。コンビニや外食といった便利さを享受しながらも、同時にどうやったら地域で自給できるか、暮らしのあらゆる選択肢を見直す時が来ているのではないでしょうか。自給自足の優等生みたいな日本人をもう一度取り戻せたら、これからの生き方のお手本として世界から注目を浴びるかもしれません。
「自社山の木を切って木桶をつくり、化学物質を一切使わないで米を育てて、できる限り自然の菌だけでお酒を造るということは、言い換えれば何も買わないで済むということでもあります。今は重油でボイラーを動かしてお湯を沸かしていますが、できれば太陽光や自分たちの山の木の端材をエネルギーとしてうまく利用できれば、原発に頼らないでいい世の中にもできるんじゃないか。僕たちは先代から良いバトンを渡されてきたので、300年以上も酒造りを続けてこれました。だから僕も同じように、元気な田んぼや豊かな山といったバトンを次の十九代目に渡したいと思っています。ただ、そのバトンの中に原発はいらない。できることなら僕らの代で断ち切りたいと思っています。田んぼを守る酒蔵であり、自給自足の蔵になるのが僕らの夢です」(十八代蔵元・仁井田穏彦)