酒蔵ではどうしても「酒造りをしている」と表現することがありますが、お酒は人間に造れるものではありません。仕込み終わった後は、蔵に棲む微生物たちの仕事。私たちにできることは、彼らが気持ちよく発酵できるよう清潔と温度に気を配りながら見守ることなのです。だから仁井田本家では、お酒は“造るもの”ではなく“できるもの”という考え方を大事にしています。酒米の仕上がりも天候によって毎年違ってきたり、仕込みが始まってもまだ暑い日が続いていれば、例年とは異なる微生物が活発になったり。さらには仕込みに関わる蔵人たちが持つ常在菌もそれぞれ違う。お酒の源となるものは「すべて生きている」ことが根本にあるため、本来日本酒というものは毎年味が変わって当然なのです。そのことを理解したうえで、“今年の日本の味”としてにいだのお酒を楽しんでいただけたら嬉しいです。